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ターボ機械を知ろう!・・・ドローン
ドローンとは?
 ドローンは画像撮影やこれを用いた橋や送電線などの設備の保守・点検等に実用されており、物流や交通手段としての利用も検討されています。ここではヘリコプタとの違いに着目し、ドローンの開発が急速に進んだ理由について考えます。

 ヘリコプタもドローンも、鉛直方向の軸を持つプロペラで下向きの流れを作り、その反力を浮上に利用します。プロペラ回転面を進みたい方向にわずかに傾け、反力の水平方向成分を水平移動の推力として利用します。プロペラ面を傾ける方法が両者で異なります。
ヘリコプタの構造と制御

図1 ヘリコプタのプロペラ(1)

図1 ヘリコプタのプロペラ(1)

 本節は多少込み入っているので、興味のない人は“ドローンとその制御”まで読み飛ばしてください。図1に、ヘリコプタのプロペラを示します(1)。プロペラ軸付近の翼にかかる曲げモーメントを小さくすることと回転面の傾きを変えるためにはばたきヒンジが、翼のピッチ角αを変えるためにフェザリングヒンジが用いられています。はばたきヒンジによって翼スパンは上がり角βをもって揚力と遠心力の合力の方向に向きます。翼根本には曲げモーメントは作用せずスパン方向の張力のみが働いて、その回転軸方向成分が機体を持ち上げることになります。また、はばたきヒンジによってプロペラ回転面を回転軸に対して傾けることが可能となり、これによって機体の運動を制御します。
 機体の運動制御を考えます。図1中の回転斜板は、操縦桿の操作方向に傾けられた外側の静止斜板に接しながら軸とともに回転し、回転斜板につながるリンク機構によって翼取り付け角(翼前縁と後縁を結ぶ方向と水平面のあいだの角度、ピッチ角α、図1参照)をフェザリングヒンジを軸として1回転に1回変動させ(サイクリックピッチコントロール)、これによってプロペラ回転面を操縦桿を傾けた方向に傾け、機体の水平方向の運動を制御します。実機のサイクリックピッチコントロールとこれに基づくはばたき運動の例です:

https://www.youtube.com/watch?v=X2BWvdnWmno

 同時ピッチレバーによって回転斜板は上下に平行移動し、平均ピッチを変えて機体の上昇・下降を制御します。回転斜板と静止斜板を組み合わせた機構をスウオッシュプレートと呼びます。回転斜板と静止斜板の軸方向位置と傾斜角度は同一となりますが、それらの間にベアリングが置かれ回転斜板は軸とともに回転します。静止斜板の軸方向位置と傾斜角度は機体側からリンク機構によって操作され、回転斜板はこれと同じ位置と角度となって回転翼のピッチ角を制御します。
図2 機体が前進するときの周期的ピッチ制御と回転面傾斜(1)
図2 機体が前進するときの周期的ピッチ制御と回転面傾斜(1)
 図2(1)に、周期的ピッチ制御によるプロペラ回転面の傾斜の制御を示します。ψは翼の回転角度で、ヘリコプタ後方をψ=0とします。プロペラは反時計方向に回転し、機体がψ=180°の方向に飛行する場合を考えます。はばたきヒンジが存在することで翼スパン方向は軸に直角な方向からずれることが可能となります。回転面がδだけ傾いた場合には、翼が一回転する間に、上がり角β+δから-δの角度の間で変化し翼がはばたくことになります。
 周期的ピッチ制御によってプロペラ回転面が角度δ<<1(rad)だけ前方に傾いた場合を考えます。プロペラ回転角ψ、半径Rの位置における傾斜回転面の高さを水平面から測ると次のようになります。

この位置におけるプロペラ軌跡の水平面に対する勾配を α*<<1とすると、式(1)を微分して次式が得られます。

プロペラ翼が対称で、翼が翼弦の方向に動くものとすると、式(2)の α*が翼面のピッチ角を与えます。
 式(2)の第1項と第2項の間の等式は設定したピッチ角 α*とプロペラ軌道の勾配が一致するとする条件式です。第2項と第3項の間の等式はピッチ角を右辺のように具体的に与えるもので、これを積分することによって式(1)が得られ、式(1)はプロペラ回転面が進行方向にδだけ傾いた平面であることを表しています。すなわち、翼がピッチ角の方向に進むことを仮定すれば、式(2)のピッチ角制御によって回転面はδだけ傾くことを表しています。ここでは翼の慣性が流体力に対して無視でき、また流体力は翼に対する相対流れ角に比例するものと仮定しています。
 翼が水平回転面内で回転し、ピッチ角が式(2)に従って変動するものとします。揚力がピッチ角に比例するものと考えると0°<ψ<180°では下向きの揚力、180°<ψ<360°では上向きの揚力が作用し、プロペラ回転面には進行方向ψ=180°に向かって時計方向のモーメントが作用します。その結果として最終的にプロペラ回転面が前方にδだけ傾き、回転面の角変位はψ=270°方向を向きます。角変位の方向とモーメントの方向が90°ずれることは、回転体の角運動量ベクトルの変化とその原因となるジャイロモーメントの関係、“ジャイロ効果”、と定性的に一致します。(注:ジャイロ効果は、“質点群に作用する外力モーメント=質点群の持つ角運動量の時間変化率”とする角運動量保存則から説明されますが、ここでの議論は作用する流体力モーメントの方向と角運動量の方向変化の関係が角運動量保存則と矛盾しないことを定性的に論じたものです。定量的に運動を論じるには角運動量保存則を適用する必要があります。ジャイロ効果は、コマの歳差運動を説明します。)
 次に傾斜回転面内のプロペラの運動を考えます。前述のようにこの面内での翼面の方向は移動方向と同一であると仮定しているので、プロペラ面に流体力は作用せず、プロペラはこの傾斜回転面内を回り続けます。水平回転面内の運動を保ったままピッチ角変動を加えると、ピッチ角変動による揚力変動が現れ、これによって翼にはばたき運動が生じた結果回転面に傾斜が生じることになります。図3に、周期的ピッチ制御を行った場合の翼の動きを、式(1)の自由なはばたき運動を許した場合と、翼の運動を水平面内に拘束し式(2)のピッチ角変動を与えた場合について示します。はばたきを許した場合には流体力は発生せず、水平面内に拘束した場合にはピッチ角に比例した揚力変動が発生します。
図3 周期的ピッチ制御による翼の動き

図3 周期的ピッチ制御による翼の動き
以上では簡単のため平均揚力がない場合について議論しました。平均揚力がある場合は平均ピッチ角を加えて

のピッチ角を与える必要があります。平均ピッチ角が加わると、図1に示すように定常揚力によって上がり角βに定常成分が生じ、スパン方向張力の回転軸方向成分が機体重量を支持します。平均ピッチ角による揚力を積分するとプロペラ回転面の垂直方向を向き、回転面が傾くと揚力の積分値もその方向に傾きます。
 操縦桿を前に倒し式(3)のピッチ角変動をあたえると、プロペラ回転面は前進方向に傾き始め、傾斜角はδに漸近します。回転面に作用する全揚力はψ=180°の方向にδだけ傾いてその前進方向成分として前進推力が得られます。同様に操縦桿を左右に倒すと回転面も左右に傾き、左右方向の推力成分が得られます。
 プロペラ回転面の角変位は機体から回転軸を介して回転面に加えられるモーメントではなく、プロペラに作用する空気力の変化によって実現されています。
ヘリコプタの反モーメント、
  横滑りに対する安定性およびオートローテーション
 図2のようにプロペラを反時計方向に回転させるとき、機体には時計方向の反モーメントが作用します。ヘリコプタでは機体の方向を一定に保つために、テールロータの推力によってこの反モーメントを相殺しています。このテールロータの推力によって機体にはψ=90°の方向の力が作用するので、ホバリング中はこれを相殺する力を得るためにプロペラ回転面をψ=270°の方向に傾けています。このように、回転体の運動を考える場合には前述のジャイロモーメントのほかに、反モーメントも考慮する必要があります。
 次に、図2の前進の場合でピッチ角が一定に保たれた場合を考えます。ψ=0°~180°では機体の前進により翼と空気の間の相対速度並びに揚力が大きくなり、ψ=180°~360°では相対速度並びに揚力が小さくなるので回転面には進行方向に向かって反時計回りのモーメントが作用します。このモーメントは周期的ピッチ変動を考えた場合と逆方向なので、プロペラ回転面並びに全揚力はジャイロ効果によって図2に示した方向とは逆に後方、ψ=0°の方向に傾き、機体を減速させることになります。このように、ピッチを一定に保ったまま横方向に移動すると、移動速度と反対方向の力が現れます。つまり、仮に横滑りがあった場合にはその滑りを止める復元力が現れることになるので、横滑りに対して静的には安定であることを示します。
 以上のようにヘリコプタでは揚力並びに推力を得るために複雑な機構と制御が必要です。ここで議論したようにホバリング時は横滑りに対して復元力が働いて静的には安定ですが、より詳しい議論をすれば動的には不安定であるので高度な操縦技術が要求されます。しかしながらドローンのような小型機でなく大型の機体では不安定の周期は長いので、パイロットの制御によって安定に飛行させることが可能となります。
 エンジンが故障した場合にはエンジンとプロペラを切り離したうえで負のピッチ角を与えることでプロペラは風車のように回転を続け、機体は滑空することができます。これはオートローテーションと呼ばれる安全上重要な機能です。
ドローンとその制御(2)

図4 ドローン(クアドコプタ)

 図4に最も簡単なドローンの構造を示します。回転方向以外は同一の4つの固定ピッチプロペラとモータで構成されています(クアドコプタ)。ここでは紙面上方を飛行方向と考えます。プロペラ①と④は時計方向に回転し、②と③は反時計方向に回転するものとします。
このとき、
  1. ①と②、③と④のプロペラの反モーメントはそれぞれ相殺するのでテールロータは不要である。
  2. 前進させるためには①と②の回転数を減少させ、③と④の回転数を同じだけ増加させる。この回転数変化によって機体姿勢は①と②が下がり、③と④が上がる方向に傾き、前向きの推力が発生する。①と②、また③と④の反モーメント並びにジャイロモーメントはそれぞれ相殺し、姿勢変化に影響しない。但し、各プロペラには機体から軸を介して反モーメント並びにジャイロモーメントが作用する。プロペラの推力は翼根の曲げモーメントで支持されている。前進速度によってプロペラに作用する揚力が変動し、機体を励振する。プロペラおよび軸はこれらの力に耐える強度を持たねばならない。
  3. 後退、右方向、左方向移動の場合も、移動方向に“前進”するものと考えて同様の操作をすればよい。
  4. 機体を水平面内で時計方向に回転させるためには、時計方向回転のプロペラ①と④の回転数を減少させ、反時計方向回転のプロペラ②と③の回転数を同じだけ増加させればよい。
  5. 上昇・降下させるには、すべてのプロペラの回転数を同じだけ増加・減少させればよい。
ドローンの特徴と要素技術
 以上のように、ドローンは4台のプロペラとモータが基本構成要素であり、その回転数を変化させることだけで機体の運動制御が可能です。横滑りをした場合の揚力変化を考えると、ドローンでは反対方向に回転するプロペラの間で横滑りによる揚力変化が相殺するので、ヘリコプタのような横滑りに対する復元力は得られず、静的には中立安定となります。小型のものほど応答が早く制御は難しくなります。

  ドローン操縦士は基本的に
   (1)前後方向移動速度
   (2)左右方向移動速度
   (3)水平面内回転角速度
   (4)上昇・降下速度

など、機体の速度変化を指示することになりますが、これはヘリコプタの操縦で直接操作するのは機体の運動ではなくスウオッシュプレート位置と傾きすなわちプロペラのピッチ角であることと大きく異なります。これらの操作情報は送信機から受信機に送られます。受信機ではこれらの情報をフライトコントローラに送り、フライトコントローラはこれを実現すべく4台のモータの回転数を前節で述べたようにコントロールします。ヘリコプタ操縦士には操作に対する機体の応答を予測する能力が求められますが、ドローンではフライトコントローラが以下に述べるように機体の応答信号を用いてフィードバックを加えることで機体の運動自体を制御してくれるので操縦が容易となり、これがドローン普及の一因となっています。

  フライトコントローラには
   (1)ジャイロ・加速度センサから姿勢・加速度に関する情報
   (2)気圧センサあるいは超音波距離センサによる高度に関する情報

が送られ、風などの外乱があっても要求動作が実現されるよう各モータの回転数が制御されます。 機体の姿勢や運動など複数の制御値を同時に目標値に近づけるために、状態フィードバック制御という現代制御の手法を用いて4つの回転翼の回転数が決定されています。
 特定のプロペラの空力性能が悪くても、必要な揚力が得られるまで回転数を増加させるため飛行は可能です。ヘリコプタの操作はスウオッシュプレートの位置および傾きとして非運転時にも直接確認できますが、ドローンの操作に対する運動応答は非運転時には直接確認できないのが難点です。

  このほか、ドローンでは
   (3)GPSによる位置検知
   (4)磁気方位センサによる方位の検知

が行われ、定点ホバリング、自動帰還、自動着陸、自動運行なども可能です。ヘリコプタにもフライトコントローラを装備すればドローンと同様の操縦性を実現することも原理的には可能です(https://www.youtube.com/watch?v=twYYlgnYavQ)。
 ドローンが実用化されたのは有用な用途が現れたことが一番大きな理由ですが、これが実現できたのは制御プログラムが開発されたのに加えて

   (1)エネルギ密度の大きなリチウムポリマーバッテリ
   (2)小型高効率同期モータ
   (3)MEMSを用いた超小型高感度ジャイロ・加速度センサ、圧力計
   (4)小型GPS並びに磁気方位センサ
   が低コストで利用できるようになり、
   (5)周波数ホッピングやダイバーシテイアンテナ
   により無線通信の信頼性向上があったためです。
今後の展開と課題
 ドローンはこれまでに画像撮影やこれに基づく各種設備の点検・管理など、実負荷が小さく運用費や安全性が第一義的に重要視されない用途に対して実用されてきましたが、物流や交通など、輸送機能を利用する分野への展開も考えられています。これに伴い今後の課題として次の事項が考えられます。

   (1) 各要素の信頼性向上と安全性の確保
   (2) 稼働範囲拡大に伴う動力源の大容量化とエネルギ効率向上
   (3) 大型化に伴うプロペラ・軸系の強度の確保と振動・騒音対策
   (4) 動力喪失時の滑空機能、あるいはこれを補填する機能の確保
   (5) GPSが利用できない場合の位置検出法(慣性航法、画像認識など)の開発

 交通への応用に関連して、騒音低減、大容量動力源、ハイブリッド化、モーターの効率化などについての特集記事が「ターボ機械協会誌」に掲載されています(3)

 ドローンは小型で単純な機構が最も大きな利点です。大型化はこれに反するものなので、この利点を損なわないことを念頭に適用範囲の拡大を図る必要があります。

謝辞:本稿の準備には宮本洋氏、姜東赫氏の貴重なご助言をいただいたので深く感謝します。
参考文献
  1. 航空宇宙工学概論再訂版、三木鉄夫編、森北出版、1979.
  2. トコトンやさしいドローンの本、鈴木真二監修、日刊工業新聞社、2016.
  3. 特集:アーバンエアモビリテイとターボ機械、ターボ機械、御法川学編、2024-11,

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