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ターボ機械を知ろう!・・・水車
水車とは?

 流体の持つエネルギーから、回転する羽根を介して動力を取り出す原動機を水車といいます。地球の温暖化の原因となる炭酸ガスの排出がほとんどなく、再生可能なエネルギーである水力エネルギーが注目されています。

 古い水車では、主として水の位置エネルギーを使って、水に働く重力によって水車を回転させてきました(図1)。近代の水車では位置エネルギーを速度エネルギーに変えて、高速の水を羽根にあてて羽根車を回転させています(図2)。この場合、古い水車では水は回転する羽根に入ると、羽根とほぼ同じ速度で回転しますので、羽根に対して相対的に静止して水車を直接回しましたが、近代水車では羽根の間を通り抜け、羽根に対して相対的に動く流れになっています。

 この流れは、羽根の腹側と背側の間に圧力の差をつくりだし、航空機の翼のような揚力を生みだしてランナ(羽根車)を回転させます。近代水車のランナは、大きいもので外径は約10m、重さは数百トンにも達するものが作られています。
【古い水車】
図1 古い水車
(出典:ターボ機械協会編、ターボ機械)
【最近の水車】
図2 最近の水車
(出典:ターボ機械協会誌、1997年度表紙)
水車の落差ってなんだろう?
 流体のエネルギーには位置エネルギー、速度エネルギー、圧力エネルギーの3つがあり、エネルギーの出入りがなければ、流れに沿って3つの和は一定に保たれます。したがって、位置が低くなれば位置エネルギーは減り、その分、圧力エネルギーが増します。

 このように、エネルギーの形態が変化するだけで、総和は常に一定に保たれます。その単位は水の高さm(水柱、ヘッドという。液体の重量1Nあたりのエネルギー)で表し、水車では昔から「落差」という言葉が使われてきました。表1に、代表的な水力発電所と滝の落差を比較して示します。

 落差は深海の深さにたとえられ、落差10mで1気圧上がります。たとえば落差が300mであれば30気圧に相当し、水車に入る前の流れが遅いと、水車の入口には30気圧の水圧がかかることになります。深海生物は、高い水圧に耐えて生きるために、いろいろな方法で体内と体外の圧力をバランスさせています。中空部があると圧力で潰されてしまいますので、深海魚は浮袋を無くし、体内は水で満たされ外部との水の流通があります(長沼 深海生物への招待、NHKブック)。水車も高圧に耐えるように強度設計がなされています。
【水車の落差、出力の例】
表1 水車の落差、出力の例
水車にはどんなものがあるの?
 水車は、羽根に高速の水流を当ててランナを回す衝動形と、芝生のスプリンクラーのように水流の反力を利用してランナを回す反動形があります。前者はペルトン水車、後者にはフランシス水車(遠心型)やプロペラ水車(軸流型)があります。ここでは水力発電に多く使われているフランシス水車(図2~4)を中心に説明しましょう。

 水車の効率は92~95%と大変高く、発電容量が50万kWの水車では、効率がわずか0.1%違っても500kWの差が出ますので、流体損失や軸受損失などを減らすことが大事です。

 ランナの周りには、多数の静止翼が環状に、しかも2重に設置され(二重円形翼列)、その外側には渦巻状のケーシングがあります。高圧の水は先ず渦巻きケーシングに流入して、旋回する内向き流れとなって、補強と整流を兼ねた静止円形翼列(ステーベーン)を経て、流量調節用の円形翼列(ガイドベーン)で高速のジェットとなって羽根車(ランナ)に流入し、ランナを回転させます。

 ランナを出た水は、まだ速度をもっていますので、速度エネルギーを有効に回復するために、ランナ出口に広がり管(吸出し管)を取り付けて広がり管出口で流れを減速させ、速度エネルギーを圧力エネルギーに変換し吸出し管出口の圧力を入口(ランナ出口)より上昇させます。これより、吸出し管を取り付けると、ランナ出口の圧力は吸出し管出口の圧力(下池の圧力)より下がり、その分ランナの入口と出口の間の有効な落差が増えることになります。

 またランナの外径が大きいのでランナにかかる水スラスト(水圧の不均一によって生ずる軸方向の力)は大変大きく数百トンから千トン以上にも達することがあります。したがって、ランナと軸でつながっている発電機側にあるスラスト軸受に働く水スラストは、ランナ、発電機の電機子、 軸の自重を含めて数千トンになるものがあり、軸受の焼き付がないように、水スラストの見積りやその低減が非常に大事です。

 水スラストは、通常はランナを下方に押しやる方向に働きますが、負荷遮断時などの過渡的な運転状態では、上向きに働く場合もあり、重い回転部を持ち上げるほどの力を発生することがあります。図4に示しますように、ランナ上面Aに赤印のような水圧が作用し、それによる上面全体にかかる力をFA、ランナ下面Bにかかる水圧による下面全体にかかる力をFB、ランナの内面にかかる水圧よる軸方向の力FC(中心方向に向かっていた流れが軸方向に変わることによって生じる力)の差としてF=FA-FB-FCで表される水スラストが下向きに働きます。この水スラストを減らすためには、ランナに働く水圧 を出来るだけ均一にすることが必要で、ランナの上面と下面が通じる均圧管や均圧穴をあけて、圧力のバランスを保っています。
【フランシス水車のランナ概略図】
図3 フランシス水車のランナ概略図
【フランシス水車概略図】
図4 フランシス水車概略図
水車の特徴は? 揚水発電とは?
 水車は起動停止を短時間で行うことが出来るという特徴を持っています。一方、原子力発電や火力発電などは、起動停止に大変時間がかかるため、短時間に発電電力量を調整することが出来ません。一日の電力使用量は、私たちが活動している昼間にピークをとり、寝ている夜間は最も少なくなります。したがって、原子力発電や火力発電は、一定出力運転をする電力負荷(ベースロード)として使われ、水力発電は電力負荷のピーク時(ピ-クロード)に適しています。

 しかし、水力発電所の発電量を調整するために、水車を部分負荷(水量や落差が変わる)で運転すると、水車のランナ出口の流れに旋回成分(渦流れ)がおきますので、これが吸出し管に周期的な好ましくない水圧脈動を引き起しやすくなります。水圧脈動が生じると、騒音、振動などの原因になったり、激しくなると電力出力が不安定になります。
 これは、大きな旋回流によって生ずる吸出し管入口中心部のらせん状の渦(竜巻の渦心は直線状ですが、これが螺旋状になったもの)が、振れまわることによって引き起こされるものです。部分負荷の運転範囲の向上には、この渦をうまくコントロールすることが重要です。負圧になっている渦の中心部に外部より空気や水を入れたり、吸出管の壁にフインなどの旋回止めを付けたりして、対策をとっています。

 一日の電力消費の変動(日負荷変動)がますます広がってきており、これを解消する手段として、揚水発電所があります。夜間の余った電力で水車を逆に回転させてポンプとして使い、水を上ダムにくみ上げて位置エネルギーとして貯蔵し、昼間の電力のピーク時に水を下ダムに落として水車として発電するものです。水の力を借りた大きな蓄電池に相当し、この水車はポンプ水車と呼ばれています。
 落差が高いほど位置エネルギーが高くなり、用地が少なくてすみ、建設コストが安くなります。海を下ダムとして使う海水揚水発電が沖縄で運転され、また炭鉱跡などの地下空間を下ダムとして使う地下揚水や、海を上ダムとして使う海水地下揚水発電なども検討されています。一台の水車でポンプ、水車の二役を果たすばかりでなく、落差も大きいので、水車の負荷も大きくなります。このためキャビテーションが発生しやすく、最先端の流体解析技術を駆使して、詳細な対策を講じています。

 今後、エネルギーコストがますます上がっていくことが確実視されています。降雨量の多い日本では、水は至るところで得られ、輸入でなく国内で調達できるエネルギーとして大きな魅力があります。まだ利用されていない工業用水や農業用水、上下水道などが、環境にやさしい水力エネルギーはまだ沢山あり、これらはマイクロ水力(100kW以下)あるいは小水力(100kW~ 1000kW)とよばれ、風力エネルギー、太陽エネルギーと共に分散電源としてこれから大いに利用されていくことでしょう。
水車の用途
  1. 位置エネルギーの利用(発電、揚水発電、海水揚水発電)
  2. 速度エネルギーの利用(潮流発電)
  3. 圧力エネルギーの利用(海水淡水化の圧力エネルギーの回収、油圧エネルギーの利用)