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ターボ機械を知ろう!・・・ポンプ
ポンプとは?
 液体にエネルギーを与えて、圧力を上昇させたり、液体を移送させる機械をポンプといいます。
真空ポンプなど一部気体を対象としたものも、ポンプと呼ぶこともあります。
【動物の心臓のはたらきとポンプの作用】
図1 動物の心臓のはたらきとポンプの作用

 ポンプは動物の心臓にたとえられます。心臓は体のすみずみまで血圧によって血液を供給しています。そのためには一定の圧力を発生させ、維持することが心臓血管系にとって大変重要です。この調節機能がうまく働かなくなって頭に血液が行かないと、例えば寝ていて急に立ち上がったときにめまいが起こります。常時血液が行かなくなったら、脳は損傷を受けることになります。

 心臓から頭までの高さは、人間の場合約50cmで、成人の正常血圧は120~80(mmHg水銀柱)です。キリンの場合、この高さは約2.5mで、血圧が人間の2倍以上であり、人間より強い心臓を持っています。首の長い恐竜は、更に高血圧の心臓を持っていたことでしょう。

 高層ビルに水を供給するには、更に圧力が高くて、大流量を供給できるポンプ(心臓)が必要になります。動物が運動すると血流が増え、これを支えるために血圧が上がります。また、キリンが上下に首を大きく移動させた場合には、脳の血液の圧力が大きく変化するはずですが、実際にはこれを変動させないコントロールが働いています。プラントにおいてもコントロールが大事であり、特に温度や圧力、あるいは流量が大きく変わるときポンプ配管系に負荷がかかる場合があるので、重要です。
どんなポンプがあるの?
 人間生活にとって最も大切なものは、水の確保です。人類が定住生活を始めて1万年、人口が増えるに従って大量の飲料水と灌漑用水の確保が最大の問題となり、水道を建設し、下水道を整備し、大量の水をくみ上げる装置を考案しました。図2は紀元前 3世紀ごろアルキメデスが改良したと伝えられるアルキメデスポンプです。ほぼ同じ原理のポンプが今でも使われています。

 今日の機械の原型となるような革新技術が生まれたのは、ワットが蒸気機関を発明し、大きな動力が得られるようになってからです。ポンプには、回転する羽根車を使って、主に遠心力を利用して揚水する遠心ポンプ、飛行機の翼と同じような多数の羽根を回転させて主に揚力を利用して液体を移送する軸流ポンプ、そしてその中間の斜流ポンプがあります。

 遠心力を利用するものは高圧を達成できますので、高圧・小流量ポンプとして用いられ、また軸流ポンプは大量の液体を移送できますので、大流量・低揚程に用いられます。
【アルキメデスポンプ】
図2 アルキメデスポンプ
最先端のポンプ
 我が国の最先端技術を誇る国産ロケットH-ⅡAは、液体水素と液体酸素を推進剤とする液体ロケットです。図3(a)に示すような遠心ポンプが、LE-7Aメインエンジンの燃焼室に液体水素(沸点;マイナス253℃)と液体酸素(沸点;マイナス183℃)を供給します。液体水素ポンプの吐出圧力は約280気圧、回転数は約42,000rpm(1分間に回る数)と大型タンカーを推進させる程の巨大な馬力があります。また、両ポンプとも約450℃を超える燃焼ガスを使用したタービンで回され、極低温のポンプ部と高温のタービン部が隣り合わせになる厳しい条件で運転されます。
 H-ⅡAの後継機であるH3ロケットの運用も開始され、 LE-9メインエンジンには低コストかつ信頼性向上を図ったポンプが適用されています(図3(b))。

 一方、医学においては、さまざまな疾患によりポンプ機能を失った心臓の代わりに血液を循環させる超小型のポンプ(補助人工心臓)が使われています。補助人工心臓は体内に埋め込まれて何年も使用されるため、耐久性に加えて、血液を破壊しない性能や内部に血液の塊(血栓)を発生させない性能が要求されます。
図3(a) H-ⅡAロケットエンジン用液体水素ポンプ(©JAXA)
図3(a) H-ⅡAロケットエンジン用液体水素ポンプ(©JAXA)


図3(b) H3ロケットエンジン用ポンプのロータ
図3(b) H3ロケットエンジン用ポンプのロータ
出典  IHI技報 Vol.57  No.3 (2017)
ポンプの特異現象
 ポンプにはキャビテーションと言われる特異現象があります。これは、なべの水が沸騰する現象と同じです。1気圧では水は100℃で沸騰しますが、圧力が下がると、常温でも沸騰現象を起こすのです。液体が流路を流れるとき、図5に示しますように、局所的に圧力が蒸気圧より下がる場合があり、その部分で液体が気化してキャビティ(気相)ができます。これが圧力の高い所に流れて、つぶれて消滅します。このとき高い衝撃圧力を生じ、材料を壊食します。同時に、ポンプの性能の低下や、騒音、振動を引き起します。

 また、管路系にはウォーターハンマーという別の特異現象があります。これは、図6に示しますように、流れを急に止めたとき水圧が急に上がる現象です。ハンマーで叩いたような衝撃音が発生するため、このような名前がついているのです。これらの特異現象は、ポンプなどを破損あるいは破壊することがありますので、流体工学、材料工学などの力を借りてこれらの特異現象を防ぐ対策が取られています。
【キャビテーションの発生概念図】
図5 キャビテーションの発生概念図
【ウォーターハンマー発生の概念図(急閉直後)】
図6 ウォーターハンマー発生の概念図(急閉直後)
(流体の慣性と圧縮性から急激で非常に高い圧力と低い圧力を繰り返す)
ポンプの用途
  1. 液体の循環(原子炉の冷却、化学プラントの溶剤、冷媒など)
  2. 揚水(雨水、灌漑など)
  3. 圧送(水道の送水、下水の排水、石油パイプライン、液化天然ガスなど)
  4. 高圧の蒸気やガスを生成するための液体圧の上昇(火力、原子力に使う蒸気タービンのボイラ給水、宇宙ロケット用推進剤など)
  5. 家庭用(灯油ポンプ、バスポンプなど)
  6. 回流水槽用(船舶、水泳、カヌーなどスポーツの科学的研究など)
  7. ジェット(ウォータージェットによる船舶の推進、接岸、離岸のための船のスラスター、遠く、高く放水ができる消防ポンプなど)
  8. 反応や装置の運転に達する圧力までの原料の昇圧(石油精製、石油化学、化学工業など)
  9. 水力エネルギーの利用(揚水発電)